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第2回 「年次有給休暇」の基本ルール

休日・休暇や賃金に関することは、従業員にとって大変気になる労働条件といえます。ところが、なかには労働基準法が守られていない職場もあり、トラブルに発展するおそれもあります。そこで今回は、年次有給休暇について解説します。

年次有給休暇を付与する条件

使用者は、雇入れの日から6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に、原則として10日の年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条1項)。また、その日から起算した継続勤務年数1年ごとに、次表に掲げる日数の有給休暇を付与する必要があります。

<通常の労働者の付与日数>

出所:厚生労働省パンフレット

ただし、パートタイマーやアルバイトなど、フルタイムで働かない労働者については、以下の表の付与日数となります。これを「比例付与」といいます。
たとえば、週3日で雇用するアルバイトが入社後6ヵ月経過し、かつ出勤率が8割以上の場合は、5日付与することになります。なお、週以外の期間によって労働日数を定めている場合は、1年間の所定労働日数から付与日数を判断します。

<週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数>

出所:厚生労働省パンフレット

年次有給休暇の請求権の時効は2年あります。前年度に取得されなかった年次有給休暇は、翌年度に繰り越して与える必要があることもご留意ください。

年5日の年休の確実な取得、できていますか?

使用者は、年次有給休暇を10日以上付与する労働者について、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日を、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。
これはパートタイマーにおいても適用されるルールです。たとえば、週4日勤務のパートタイマーが、入社して3年6ヵ月を経過すると、年次有給休暇を10日付与することになります。
上記の図表の太枠内に該当する労働者がいる場合は、特にご注意ください。
時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取する必要があります。聴取というと少し堅苦しい響きがありますが、わかりやすく言うと、「いつ年休を取得したいですか?」という声掛けです。
労働者から「〇月〇日に取得したい」、という意見があれば、尊重して取得時季を指定ください。

ただし、すでに5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はなく、またすることもできません。
年次有給休暇を付与した日から半年以上経過して、まったく年休を取得していない労働者があれば、積極的に声掛けをして5日取得できるようにしましょう。
ここでひとつ注意点があります。
年次有給休暇を半日単位で取得する場合は、半日休暇を2回取ることで1日にカウントできますが、時間単位で取得できる事業所の場合、労働者が時間単位年休を何時間取得したとしても、この5日間にカウントすることができません。そのため、1日または半日単位で5日取得させるように心がけてください。
使用者が年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合、罰則(30万円以下の罰金)が科されることがあります。

『年次有給休暇管理簿』を作成しましょう

使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、当該年休を与えた期間中および当該期間の満了後『3年間』保存しなければなりません。
これは、労働基準法で規定された代表的な法定4帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、 年次有給休暇管理簿)のひとつです。
年次有給休暇を5日取得させても、年次有給休暇管理簿を作成・管理できていない中小企業は多いようです。
必ず記載すべき項目は、基準日(付与日)、年次有給休暇を取得した日数および取得した日付の3点で、様式は問いません。

年次有給休暇管理簿は、労働者名簿または賃金台帳とあわせて調製することができます。
必要なときにいつでも出力できる仕組みとした上で、システム上で管理することも差し支えありません。
年次有給休暇の取得は、労働者の心身の疲労の回復、生産性の向上など労働者そして会社双方にとってメリットがあるといえます。
労働者がしっかりと休みを取って働きやすい職場となるよう、環境整備に努めていきましょう。

佐佐木 由美子

社会保険労務士、人事労務コンサルタント

グレース・パートナーズ社労士事務所、グレース・パートナーズ株式会社代表。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。開業後は中小・ベンチャー企業を中心に、人事労務・社会保険面から経営と働く人を支援。経済メディアや雑誌、書籍など多数執筆。著書に「1日1分読むだけで身につく 定年前後の働き方大全100」(自由国民社)など。


「1日1分読むだけで身につく 定年前後の働き方大全100」(自由国民社)