業界情報

LPガス物流の未来を占う 2024・2025年問題の課題と展望

2024年物流問題を機に、LPガス業界の物流を取り巻く環境は大きな変革の時期を迎えています。さらに2025年には、ドライバーの高齢化やデジタル化への対応など、新たな課題も……。エネルギー事業コンサルタント/中小企業診断士の角田憲司氏に、LPガス物流の今後について伺いました。

予想された混乱は回避、しかし課題は山積

2024年4月から施行された働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働の制限、拘束時間の上限規制が強化されることとなり、「物流2024年問題」として話題となりました。
当初、野村総合研究所は2024年度に14%、2030年度には34%の輸送力不足が生じる可能性を指摘していましたが、実際には深刻な混乱には至っていないようです。国は「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定し、大手事業者を中心に対策が進められてきました。ただし、圧倒的多数を占める中小企業では、対策がまだ進められているとは言い難い状況です。

また、LPガス業界における物流問題は、地域によって状況が大きく異なることが特徴です。

たとえば、北海道はとにかく広いうえ、需要家が密集していないので配送効率が上がりにくく時間がかかります。そうした背景もあり、共同配送などの取組みが早くから進められてきた地域です。一方で、都市部で顕著なのは人手不足です。人口が多く軒数も量も多いので、他業種との人材獲得競争が激しくなります。ドライバーのなり手が集まりにくく、定着せずに転職してしまうケースが多いです。

物流2005年問題は「ヒトの問題」

2024年問題に追い打ちをかけるように、「物流2025年問題」が取りざたされるようになりました。ドライバー不足の深刻化、若年層人口の減少による物流業界の労働力不足、物流コストの上昇、そして、「2025年の崖」といわれるデジタル化の遅れ、といった複合的な課題を指します。2025年問題についてLPガス業界に焦点を絞ると、喫緊の課題となるのは「ヒトの問題」だといえるでしょう。

出典:経済産業省「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」

もともと物流コストのウエイトが高い構造にあるなか、構造改善推進事業費補助金をはじめとする国の補助策なども活用して合理化・効率化が進められました。ただ、主に充てん所の統廃合・共同利用やLPWAの採用などハード面の対策が中心で、労働時間規制や人手不足への対応といったソフト面の対策は、業界課題というより個別事業者の課題という扱いです。労働条件の改善や単なる効率化のためのデジタル化では、物流問題は解決しません。
普及が進んでいるLPWA端末設置による自動検針は、物流や配送の問題解決の第一歩であることは確かですが、その効果は自社配送員の稼働の効率化や労働条件の一部緩和にとどまる限定的なものです。

地域単位での“横”の連携が今後のカギに

そこで、私が近年提唱しているのが「地域流通プラットフォーム」の創設です。縦割りになりがちな物流の効率化を打破し、特にラストワンマイル(地域内の配送)における小規模分散のリスク解消が、問題解決の重要なカギになります。
地域のなかで系列を超えて、現場での作業が必須となる充てん・配送業務を集約・統合して、流通コストの最小化を図るという考え方です。都市ガスや電力の託送料金のように、各社の小売価格に対して流通コストはニュートラルとなり、小売事業者は流通コスト以外の部分で、お客さまに選ばれる努力のために、時間や労力を費やせるようになれば理想的でしょう。

LPガスの地域流通プラットフォーム実現にあたり、目下のハードルとなるのが、地域の中で競合関係にある事業者同士の協力が必要であることでしょう。これについては、充てん・配送業務のみを切り出せば十分で、卸売り事業者の統合・合併は必須ではありません。まずは、地域の有力な事業者が手を挙げて小規模から始めて、少しずつ裾野を広げていけば良いのです。

危機感を持って業界全体での取組みを

LPガス事業は、事業者Aが供給をやめたら事業者Bが代わりになれる、陸の孤島といわれる地域にも供給可能、価格は高くても『仕方ない』が通用してきました。だからこそ、地域連携が実現しにくい背景として、私がもっとも問題視しているのが、業界全体として危機感が薄いことです。

国内のエネルギー供給では、危機感が高まったことで既に対策が講じられている前例もあります。SS(ガソリンスタンド)の過疎は、地域の死活問題につながるため、国の政策として廃業を防ぐための規制緩和が進みました。また、離島では電力供給にかかるコスト増大が深刻になったことで、再エネ活用による電力の自給自足の動きが加速しています。
LPガス元売り・卸売りの系列を乗り越えてでも地域の中でやろう、という機運になっていかないと、真の問題解決にはなりません。まずは、LPガス業界の全関係者がLPガス供給体制の維持を揺るがす問題が起きているという認識を持ち、腰を据えて取組み進められるよう考えていくべきだと思っています。

角田 憲司

エネルギー事業コンサルタント
中小企業診断士
中小企業アドバイザー(高度化事業支援)

1978年、東京ガスに入社し、家庭用営業・マーケティング部門、熱量変更部門、卸営業部門等に従事。2011年千葉ガス社長、2016年日本ガス協会地方支援担当理事を経て、2020年4月よりフリー。都市ガス・LPガス業界に向けた各種情報の発信やセミナー講師、個社コンサルティング等を行っている。