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どうする? 外国人の入居対応

不安を解消して、社会貢献を実現

新型コロナウイルスによるパンデミック以前から日本に住む外国人は増加傾向にありましたが、外国人を受け入れる賃貸住宅はまだまだ多くありません。積極的に外国人を受け入れることが効果的な空室対策になることはわかっていても、「余計なトラブルが起きるのでは」と不安を抱えている賃貸住宅オーナーが多いようです。この記事ではそんな不安を解消し、トラブルに対する具体的な対応策を確認していきます。

2024年11月15日

需要が高まる賃貸住宅の外国人入居

日本で暮らす在留外国人(3ヵ月以上日本に滞在し、外国人登録をしている人)の数は、近年増加傾向にあり、令和4年末時点で307万人にもなりました。【出典:2022年12月在留外国人統計(法務省)】
また、平成27年の国勢調査によると在留外国人のほぼ半数の世帯が、賃貸住宅を住まいとしています。【出典:平成27年国勢調査(総務省)】
今後、パンデミック以前の水準より外国人は増加するという予測はできているのですが、まだまだ外国人を受け入れる賃貸住宅は多くないのが現状です。積極的に外国人を受け入れることにより、効果的な空室対策になることは言うまでもありません。また、外国人の受け入れを認知されることで、新たな成約につながりやすくなり、入居した外国人からのクチコミ効果も期待できます。
さらに、外国人が日本に住むとき設備等にグレードの高いものを求めるケースが多くないことから、無料インターネットや家具・家電付きにするなど少額の負担でも、工夫次第でさらに多くの外国人入居希望者が見込めます。独自のコミュニティが出来上がってくれば、外国人に住みやすい街として人気が出てくることも考えられます。以下、外国人の入居受け入れの成功事例を見てみましょう。

外国人受け入れの成功事例>>

「家電・家具付き」にして留学生に人気の物件に

福島県いわき市にある築50年の木造アパートの事例です。築年数からも空室が目立つようになっていましたが、地元の大学に留学生の紹介を依頼し、中国人とモンゴル人の留学生を受け入れました。大家さんが、部屋に必要最低限の家具や家電を設置したところ、ほぼ身ひとつで来日していたため、この工夫は大好評。その後、彼女たちがまわりの友達に物件を宣伝してくれたこともあり、留学生の入居が次々と決まっていき、気がつけば、地元の留学生に人気の物件となりました。
成功のポイントは、「家具・家電付き」にしたこと。短期間で日本に滞在する外国人にとって、家具や家電を揃えることは負担が大きいため、「家具・家電付き」は、外国人向けの大きなアピールポイントになります。

外国人受け入れの成功事例>>

大規模アパートを「外国人専用」にして成功

群馬県にある200室の大規模アパートの事例です。空き部屋の増加に困っていた大家さんの希望は、「とにかく満室にしたい」でした。そこで、管理会社が、日系ブラジル人などの外国人が多く住んでいるという土地柄に目をつけ、「外国人専用」の物件として募集しました。「外国人専用」という積極的な受け入れを示すことにより、広告をしなくても、現地の看板や人材派遣会社の紹介、クチコミ等で入居希望者が絶えない人気物件となりました。現在は、フィリピン人、ブラジル人、ペルー人、インド人、タイ人…と様々な国籍の外国人で満室となっています。
※事例は国土交通省「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」より

ルールや生活習慣をしっかり説明、とことんコミュニケーションを

どうやら外国人入居者を受け入れることは大きなメリットがあることがわかってきました。ですが、今まで外国人を受け入れたことがないオーナーにとっては大きな不安があることも事実。「日本人入居者では起きなかった言葉や文化の違いによるトラブルが起きてしまうと、それがデメリットになってしまうのではないか」と疑念を持ってしまうのももっともなことです。ここでは外国人を受け入れるにあたって想定できるトラブルとその対応策について、具体的に見ていきましょう。
賃貸住宅のオーナー向けの情報サイトによると、想定されるトラブルは細かく見ていくと以下の8つ。

  • ①「騒音」による近隣住民からのクレーム
    *パーティーやイベントでの騒音 *夜間の洗濯や足音
  • ②「ゴミ捨て」のルールを守らない
    *分別しないで出してしまう *ゴミ出し時間を守らない
  • ③「多人数同居」や「又貸し」の問題
    *友達や職場の同僚と勝手にシェア *無断で又貸し
  • ④「ペット不可物件」でのペットの飼育
    *不可なのにペットを飼育 *ペットの鳴き声や糞尿などの異臭による近隣トラブル
  • ⑤勝手に「部屋の改造」をしてしまう
    *改造をしてはいけないという常識が通じない *原状回復の費用請求の問題
  • ⑥「家賃の滞納」
    *相手に支払う意思がある場合や、数回の滞納では退去させることはできない
  • ⑦「突然の退去」
    *無断退去や帰国で音信不通になるリスクあり
  • ⑧「連帯保証人」の意味が理解できない
    *意味が理解できず、提出がないまま入居を受け入れてしまう

このように見ていくと、「こんなにトラブルがあるのでは外国人入居者を受け入れるなんて到底無理」と思われたオーナーも多いのではないでしょうか? しかし、以上のことは日本人入居者でも起こり得るトラブルです。外国人の場合は当然のことながら、「文化や言語の違いによるトラブル」が起こることを想定しておかなければなりません。つまり、国によって、言葉だけでなく、文化、生活習慣、マナー、常識などが違うため、日本で生活する上でのルールを知らなかったり、なぜそのようなルールが必要なのかがわからなかったりするいわゆる、コミュニケーション不足やスレ違いから、トラブルが発生するケースが多くなってくるわけです。
入居中のルールや日本の生活習慣をしっかり説明し、お互いが納得するまでとことんコミュニケーションをとること。またオーナーも外国人に対して正しい知識を持ち、しっかりとした信頼関係を築いていくことが必要となってきます。

管理会社や保証会社のサポートを活用することも有効

では具体的にトラブルを回避するためにはどう対応したらよいのでしょうか?

重要事項は念入りに確認して理解するまで説明すること

重要な約束ごとは、国土交通省が公表している「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」を利用して、重要事項を確認し、入居者が理解するまで徹底的に説明。同意のサインをもらいましょう。またこの書類には、近年頻発しているトラブルを回避するためのQ&Aなど、参考になる項目が多数記載されています。このガイドラインに合わせて必要な書類や条件、スケジュールなどを準備していきましょう。

管理会社や保証会社のサポートの活用

また、外国人入居者の対応に慣れている不動産管理会社や保証会社のサポートを利用することも有効です。外国語対応が可能な会社や、外国人を専門に物件管理とその対応をオーナーと一緒にしてくれる会社もあります。管理手数料などの料金が発生しますが、トラブルがない物件にできれば、有効な手段になりますので、一度相談してみましょう。

トラブルを想定して連帯保証人は必ずつける

今まで見てきたように、連帯保証人の確認が取れない人物を入居させるのは非常に危険です。万が一、家賃滞納や退去手続きも放棄して退去されてしまった場合は、何も対策が取れなくなりますから、必ず連帯保証人はつけてもらいましょう。外国では連帯保証人を付けるという文化がない国がほとんどであるため、その必要性を理解してもらえないこともありますから、わかってもらえるまでしっかり説明しましょう。どうしても連帯保証人がつけられないという場合は保証会社を使えるので、そのこともきちんと説明して日本でのやり方を理解してもらうことが大切です。

外国人の受け入れは社会貢献、国際交流に通じる

2021年、東京オリンピック開催によるグローバル化推進や外国人労働者の雇用拡大という政府の施策もあり、新型コロナウイルスが一応の収束をみせた現在、外国人入居希望者を受け入れる賃貸住宅の需要は再度高まっていきます。
 トラブルの未然防止策が出来さえすれば、安定した経営や利益の黒字化ができるばかりでなく、入居先に困っている外国人を受け入れるという対応は社会貢献にも通じます。社会と深くかかわっていき、国際交流に貢献していきたいという考えは賃貸経営戦略の一つとしてオーナーが掲げていくにふさわしいテーマだと思います。また、オーナー自らが外国人入居者との交流で得がたい経験をしていくことができるに違いありません。

「外国人拒否」で慰謝料の支払いを命じられた事例も

本来、賃貸借契約はいわゆる「契約自由の原則」、つまり当事者が合意する内容で自由に契約できるはずです。ただ、近年では、日本の国際化に伴い外国人が増え、慣れない大家さんが外国人を入居拒否する傾向が出てきたため、裁判所も国籍による入居拒否を違法と認定するケースが出てきています。
外国人であることを理由として入居を拒否すると、不当な差別に当たるおそれがあり、過去に、国籍のみを理由に入居を拒否したことで、慰謝料の支払いが命じられた事例もあります。
ここで重要なことは外国籍を理由に断ることは違法であるとのことですが、入居審査自体を否定されているわけではありません。国籍という部分だけで入居の可否を決めてしまうことが問題なのであって、本人の年収、勤続年数、連帯保証人の内容などを総合的に加味した結果、入居を断るという判断になり、それがたまたま外国籍の人だったという場合も全て違法だというわけではないことを理解しておきましょう。

●出所・参考サイト

国土交通省ホームページ 
「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」(賃貸人、仲介業者・管理会社の方へ)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000017.html
全国賃貸住宅経営者協会連合会ホームページ 
https://www.chintai.or.jp/

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