2024年7月1日
人手不足が深刻化する中、近年注目が集まっているのがシニアの労働力です。一方「定年制」を導入している企業が多く、「いつまでどのように働いてもらうか」は事業主にとって大きな検討課題といえます。そこで、定年に関する企業の動向や知っておくべきルールについて解説します。
そもそも「定年」とは、労働者が一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度をいいます。「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、事業主が従業員の定年を定める場合、60歳を下回ってはならないことが定められています。
定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置を実施する必要があります。これを「高年齢者雇用確保措置」といいます。
厚生労働省の令和5年「高年齢者雇用状況等報告」によれば、全企業の69.2%が「継続雇用制度」の導入により対応していることがわかります。継続雇用制度とは、雇用している高年齢者を本人が希望すれば定年後も引き続いて雇用する「再雇用制度」などの制度をいいます。継続雇用先は自社のみならずグループ会社とすることも認められています。
再雇用の場合、一旦これまでの雇用が終了して新たな労働契約を結び直すため、労働条件をリセットすることは可能です。ただし、賃金などについては不合理と認められるほど相違のないように留意しなければなりません。
定年年齢を65歳以上70歳未満に定めている事業主又は継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入している事業主は、以下1から5のいずれかの措置(これを「高年齢者就業確保措置」といいます)を講ずるよう努める必要があります。
1.70歳まで定年年齢を引き上げ 2.定年制を廃止 |
3.70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入 |
4.70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 5.70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 |
上記3~5では、対象者を限定する基準を設けることが可能です。4と5については、「創業支援等措置」と呼ばれ、雇用によらない措置となります。そのため、過半数労働組合等の同意を得た上で措置を導入する必要があります。
こうした高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は、いまだ企業全体の29.7%で、中小企業では30.3%、大企業では22.8%となっています。実施済み企業においても対策が取られているのは、継続雇用制度の導入(23.5%)が最も多い状況です。
企業における定年制の状況をみると、60歳定年がいまだに主流(全企業の66.4%)であり、65歳までの雇用確保措置に加えて、70歳までの就業確保措置に着手する企業が少しずつ出始めているといった状況がうかがえます。定年制自体を廃止する企業は、全体の3.9%にすぎません。
出典:厚生労働省 令和5年「高年齢者雇用状況等報告」
常時10人未満の事業所では、労働基準法上において就業規則の作成義務がありません。そのため、小規模な事業所では労働条件が曖昧になっているケースも考えられます。しかし、定年というのは労働者にとって大変重要な労働条件のひとつです。
従来は「定年といえば60歳」というのが一般的な見方でした。定年年齢自体を必ずしも引き上げなければならないわけではありませんが、65歳までは雇用を確保する措置を講じなければなりません。さらに70歳までの就業確保措置をどうするか、努力義務とはいえ考えておきたいところです。長く就労できる職場であるかどうかというのは、ミドルシニアの働き手にとっては大きな関心事。どのような選択肢を用意するか、じっくりと検討いただければと思います。
社会保険労務士、人事労務コンサルタント
グレース・パートナーズ社労士事務所、グレース・パートナーズ株式会社代表。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。開業後は中小・ベンチャー企業を中心に、人事労務・社会保険面から経営と働く人を支援。経済メディアや雑誌、書籍など多数執筆。著書に「1日1分読むだけで身につく 定年前後の働き方大全100」(自由国民社)など。
「1日1分読むだけで身につく 定年前後の働き方大全100」(自由国民社)