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ネット時代の空室対策に新しい価値を生むヒント

賃貸リノベを考える

昨今、リノベーションという言葉をよく聞きます。 原状回復を目的とした比較的小規模な工事をリフォームと呼んでいるのに対し、 間取りから内装・配管などすべてをゼロから考え直し、 つくり替えることをリノベーション(リノベ)といい、 対応を分けている会社が多くなっています。機能を刷新し、 新しい価値を生み出すリノベは賃貸住宅経営において大きな流れになっており、 空室対策の重要なワードにもなっています。

なぜ、賃貸リノベが注目されているのでしょうか?

空室率は低めで安定しているが将来は確実に増加

また、関西、中京、福岡県における空室率は、コロナ禍の影響は少なく数字はほぼ横ばい。2022年に入ってからは、大阪、京都、愛知では空室率の減少傾向が見られました。このように、現在、都市圏において空室率は安定していますが、今後は人口減少や増加する空き家数などの社会情勢の変化によって、空室率は確実に高くなっていくことが予想されます。

築30年超の貸家が20年後には約1.5倍の1,808万戸に

2022年に発表された内閣府「貸家建設の動向について」には「減少していた貸家着工数は、2021年2月以降下げ止まり、年半ばにかけて大幅に増加し、新設住宅着工戸数全体の押上げに大きく寄与した」とあり、近年の貸家建設数は増加の傾向にあります。
また、国土交通省「賃貸住宅の計画的な維持管理及び性能向上の推進について」(令和元年)では、「将来の貸家戸数推計」を紹介しています。資料によると「過去20年間の着工戸数と滅失率の傾向が今後も同じペースで継続するものと仮定した上で、今後20年の貸家の戸数を計算すると、築30年超の貸家が2017年末現在で1,186万戸であるのに対し、20年後には約1.5倍の1,808万戸に増加。築50年超の貸家は、20年後に約3.5倍の830万戸、築40年超は約2倍の1,374万戸に増加するものと推測される」と言及しました。特に築年数の古い賃貸住宅の増加が想定され、今後大きな課題となりそうです。
仮に貸家戸数の増加が続けば、人口減少や世帯数の減少によって、空室率が高くなるのは明らかです。日本の人口は減少を続けていて、賃貸住宅の需要と密接に関連する世帯数も、今後は減少すると予測されています。

老朽化に伴う賃貸住宅の魅力の減少にリノベで対応

 当然のことながら、賃貸住宅の築年数が古くなると建物や設備が劣化。周辺物件との競争力が低下し、入居者が集まりにくくなる傾向があります。部屋が空いてしまい、賃料を下げざるを得ない状況になってくると、賃貸住宅の経営状態にも影響が出ることは間違いありません。そこで必要となるのは、計画的な修繕やリフォーム・リノベーションです。
国土交通省は「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」を作成し、賃貸住宅の資産価値の維持・向上を図るため、適切な時期に、「必要な投資」として、適切な修繕工事を行うこと(計画修繕)を呼びかけています。しかし、国土交通省のアンケート調査によると、実際に計画的・定期的に修繕を実施している賃貸住宅オーナーは2割程度に留まるという結果が出てしまいました。その理由として「資金的に余裕がない」「必要性が理解できない」「実施方法が分からない」等が挙げられています。修繕工事の実施については、オーナーによる判断の格差が大きく、計画的な維持管理が行われていないケースが多いというのが実態のようです。
一方で、賃貸住宅の性能を向上させ、より住みよい賃貸住宅にしていくこと、つまり計画修繕やリノベーションを経営判断として選択。成功をしているオーナーがたくさんいることも事実です。
リノベーションとは、公式な定義はありませんが、建物の状態をより良くして、建物の資産価値を向上させる工事のことをいい、多くの場合は「設計」を伴う工事となります。基本的に柱や梁を露出させた状態にして工事を行いますが、間取り変更などを伴うのであればリノベーションに相当します。最新設備の導入、ニーズに合った住環境の提供というリノベーションを行うことで、入居者からの評価を高めることができたという事例も多数報告されています。それでは賃貸リノベの傾向と具体的な事例について見ていきましょう。

SNS時代「入居者に選ばれる」「競争力のある」賃貸リノベ事例とは?

 冒頭、都市圏において空室率の減少傾向があるというデータを見てきました。コロナで引いた人が戻ってくる際に購入と賃貸を検討。まだまだ物件が高く購入しにくいので、賃貸にシフトチェンジ。比較的高い予算で賃貸物件を探している人も多く、そのような流れがリノベ需要を牽引しているようです。また、多くの不動産会社が賃貸リノベ市場に着目。各社の企画力を生かした多くの優良物件を提供していることもあり、賃貸リノベ市場は活況を呈していると、業界関係者は話しています。
また、昨今のインターネットでの入居者募集に効果的な「物件画像の見映え」に注目をしてリノベーションをしたというオーナーも増えており、地域性の分析や、ターゲットである入居者のセグメントをいかに行っていくのかも、SNS時代の賃貸リノベ成功の鍵になっています。つまり、入居者に「住んでみたい」「住み続けたい」と思わせる「競争力のある」価値を見出し、物件に付加していくことがリノベ成功のポイントのようです。では、どのような要件やテーマに着目してリノベを検討していけばいいのかを見ていきましょう。
※ 後述の事例は国土交通省「計画修繕の必要性・国交省の取り組み」(動画)より抜粋

ライフスタイルの変化に合わせた間取りや今風のインテリアデザインに

一人暮らし向け
□ バス・トイレ別は必須。シャワーでもOK
□ 25㎡以下ならばデザインで差別化を
□ 26㎡以上は広さ重視のニーズあり。広いワンルームの方が勝算あり

二人暮らし向け
□ 予算が高めでもできるだけ広い部屋が人気
□ 郊外は引き続き根強い人気。家賃上昇率も堅調
□ 東京都内は需要過多により、工事完了前に申し込み多数


人気のインテリアやデザイン傾向など
□ 60㎡以上での需要が多い。
 賃料が上がってもより広い部屋に住みたい
□ 無垢材の使用でインテリアデザインを差別化
□ ベージュ系、グレー系の色遣いが人気
□ タイル張りなど、キッチンや洗面台の造作が個性的なものが人気
□ 押入れを改修し、テレワークスペースに
□ 玄関のシューズボックスの扉を外しオープンに
□ クローゼットの扉を外した見せる収納
□ キッチンは対面式が人気


物件の地域特性やライフスタイルの変化に合わせ、間取りやインテリアをより個性的に、デザイン重視でリノベーション。押入れを改修してテレワークスペースにする、扉を外した「見せる収納」のクローゼットを設置するなど、購入は難しいが賃貸でいいものを探している人向けに「今住んでみたい」エッジを立てた改修を実施。

事例1

間取りの変更、浴室設備のグレードアップによる賃料アップ

内容東京都、築33年の木造2階建て、10戸のアパート築30年目に専用部分1室のリノベーション工事を実施。ダイニングキッチンと洋室を1室とする間取りの変更と、和室の洋室への変更。浴室設備を最新設備に交換(施工費:約155万円)。
経緯築10年目から、共有・専用部分それぞれに工事を実施してきたが、築30年を迎え空室が続き入居促進のためリノベーション実施を判断。
効果工事実施後すぐに入居が決定。
施工前賃料71,000円 → 施工後賃料:79,000円

事例2

3点ユニットバスの解体、シャワー室・トイレの分離等による賃料のアップ

内容東京都、築29年の木造2階建て、18戸のアパート築27年目に専用部分1室のリノベーション工事を実施。3点ユニットバスを解体し、シャワー室とトイレを別に設置。流し台、ガスコンロの交換、カラーモニターインターホン、照明、床、扉等も交換(総工事費:約110万円)
経緯築20年目に大規模修繕を実施、サブリース契約も更新。長期的な運用を見据え、築27年目の入居者の入れ替えのタイミングで実施。
効果広告掲載上もバス・トイレ別と表記できるため、賃料を2~3,000円上げて募集が可能に。
施工前賃料47,000円 → 施工後賃料 50,000円

セキュリティと防災対策に注力した住宅

□ 地域のハザードマップを確認し、対策を講じる
□ 耐震構造、地震や水害に強い間取りや設計
□ エントランスのオートロック化
□ 防犯カメラの設置


 一人暮らしならば防犯というキーワードは絶対条件。また、入居者は災害に対して敏感になっているので、地域のハザードマップを確認。可能な限り対策を取り、それを入居者に周知することが重要。

地域で必要とされる付加価値を提供できる住宅に

□ ペットとの共生、キャットタワー、ドッグランのある住宅
□ DIYができる賃貸住宅
□ 防音室の設置
□ 宅配ボックスの設置
□ ウッドデッキのある部屋
□ 子育て世代を意識した間取り
□ 浴室乾燥機の設置
□ ガレージ、駐車場のニーズを分析


物件の地域特性を分析し、入居者が求める価値に特化したリノベーション。ペットとの共生住宅や防音室、ウッドデッキのある部屋などは成功事例も多く報告されている。どのように入居者のニーズを掘り起こしていくかがポイント。

事例3

間取り変更、ペット専用リノベーション工事の実施による賃料アップ

内容福岡県、築32年の木造2階建て、9戸のアパート
築31年目に間取りの変更とともに、キャットウオーク、キャット吊橋、キャットタワーの設備設置など猫専用のリノベーション工事を実施(総工事費:約197万円)。
経緯設備、および間取りの陳腐化による空室対策の一環でリノベーションを実施。
効果猫専用のリノベーション物件として反響が増加。
工事前賃料53,000円(共益費1,000円)
→ 工事後賃料:61,000円(共益費4,000円)

「空室対策=リノベ」ではありません。プロに相談して正しい投資判断を

 入居者のニーズに合わせたリノベーションや計画的な修繕を実施し、賃貸住宅としての質や価値を長持ちさせることは、安定した賃貸住宅経営を行うために必要不可欠なことであることがわかってきました。しかし、「空室対策=リノベーション」ではありません。空室が出始めたと感じた場合は、まずは空室ができる理由を分析することが重要であり、これらの分析は、できる限り、賃貸住宅建築と賃貸住宅経営のプロに相談するようにしましょう。そのうえで、修繕やリノベーションのコストに加えて、周辺地域の市場動向を注視しながら、収益計画を練り、投資の判断をする必要があります。
大切な不動産資産を次世代以降に引き継ぎ、「資産寿命」を延ばしていくためにも、長期にわたって賃貸経営を健全に行っていきたいものです。そのためには十分な準備と計画性が何より必要なことではないでしょうか。

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●出所・参考サイト

国土交通省ホームページ 
「計画修繕の必要性・国交省の取り組み」(動画)https://www.youtube.com/watch?v=qWqvHB7C2no
国土交通省ホームページ 
民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」 https://www.mlit.go.jp/common/001231406.pdf
国土交通省住宅局 
「民間賃貸住宅における 計画修繕のための事例集 (追補版)令和3年3月」 https://www.mlit.go.jp/common/001414599.pdf