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37年間で飛躍的進化! GHPが切り拓くガス業界の次なる一手は?

1980年代に商業化された、日本発祥の空調技術であるGHP。今回は、1987年・春号の『イトチュー プロパンニュース』に掲載した『LPガスの新しい需要創造が期待されるGHP』を切り口に、GHPコンソーシアム、株式会社アイシン、ダイキン工業株式会社の三者にヒアリング。ガスの需要拡大に貢献する効率的なエネルギー利用の手段として重要性を増すGHPの技術革新や社会的ニーズの変遷と今後について、話を聞きました。

▼1987年掲載の記事はこちら▼

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Part.1――過去から現在までのGHP市場概況と推移について

GHPコンソーシアム 事務局長 稲垣英孝さん

2023年度までの累計出荷台数は110万台超

GHPは、1970年代のオイルショックを契機に、夏季電力のピークカットのために開発が進められました。経済産業省(当時、通産省)の研究補助事業として、大手都市ガス3社とエンジンメーカー等が技術を確立し、本格発売されたのは1987年のこと。以降、2024年3月末までの累計出荷は、LPガス・都市ガスの両仕様機合計で110万台超に達しています。

EHPと比較してGHPは消費電力を90%削減

GHPの更新サイクルは15年程度とされます。統計をもとに足元の市場ストックを推定すると、累計で約40万台、出力ベースで約2,000万kWの設備が稼働中とみられます。ここでポイントとなるのが、GHPは空調機の要であるコンプレッサー(圧縮機)の駆動をガスエンジンで行うことです。電気はほとんど消費しません。対するEHPは、コンプレッサーを電気モーターで動かすため多くの電力を消費します。比較してみると、GHPの消費電力はEHPの約10分の1と試算できます。
双方の消費電力の差について、先のGHPの市場ストック約2,000万kWをEHPに見立てて比べてみましょう。EHP市場の平均COP(成績係数=一定条件下におけるエネルギー消費効率を示す値です。数値が高いほどエネルギー消費効率が高い)を市場実態から3.0程度と推定すると、EHPの消費電力量は2,000万kW÷3.0COP=667万kWほどとなります。一方、GHPの消費電力は10分の1となるため、消費電力量はわずか66.7万kWです。電力削減効果は約600万kWにおよび、その規模は1基あたりの出力が100万kWといわれる原発6基分に相当します。

今、大きな節電効果に地方公共団体が注目

一般的な事務所で使う電力のうち、およそ40%は空調用途といわれています。これをGHPに転換すれば、36%の節電効果が得られることになります。電力消費の低減によって期待できるのが、月々の契約基本料金です。契約基本料金は直近12ヵ月の最大デマンド(最大需要)によって決定されます。EHPを利用する場合、夏場や冬場の需要ピークが各月の契約基本料金に反映されるため、電力使用量が少ない月でもそのコストは増します。
一方、GHPに転換すれば、最大電力需要が抑制されるため、結果として年間を通じて消費電力が平準化され、契約基本料金の大幅低減につながります。

こうしたコスト面の優位性に加え、近年は学校の教育環境改善とレジリエンスを同時実現するトータルソリューションとして、地域の避難所としても活用される学校体育館にGHPを配備する地方公共団体が目立ってきました。
災害時に避難所となる学校体育館は、土日や長期の休みなどがあり需要変化が大きな建築物。ピークカットで電気料金を抑えられ、さらに災害時対応もしやすいGHPにメリットを感じる地方公共団体は多いです。教育と防災の課題解決策として情報発信していただくとともに、新規ガス需要創出の新たな手札としてもGHPの活用に目を向けてみてはいかがでしょうか。

Part.2――更新需要を確実に取り込み、脱炭素時代に挑む

株式会社アイシン E-VC営業部 主査 中岡勇造さん
株式会社アイシン E-VC営業部 グループ長 曽谷忠彦さん

30年超、多彩なラインナップで市場開拓

1987年に7.5馬力の1モデルから始まり、以降30年以上にわたってGHPの開発・販売を行っています。2000年には業界先駆けとなる配管洗浄不要の「コブラフィット」、その後、連結タイプ、エレベーターでの搬入が可能な16馬力のコンパクトタイプ、2011年の東日本大震災後には停電時にも電力供給・空調が可能な電源自立型「ハイパワープラス」、1台の室外ユニットで冷暖同時運転可能な冷暖フリータイプほか、ラインナップを拡充してきました。これまで世に送り出してきた型式数は、正確には数えきれないほどですが数千種類に及ぶと思います。累計出荷台数は2022年に30万台を突破し、現在は32万台に届くというところです。

技術革新で故障率は30年前と比較して大幅に減少

87年当初のGHPでは、室外機のコンプレッサー1台につき室内機1台。現在は、コンプレッサーが複数台ついても1系統にして、複数台の室内機をマルチ制御できるようになっています。1台の室外機に対して、最大64台の室内機を接続できるものもあります。制御方式の進化により大幅な性能向上と設置自由度の向上を実現してきました。

サービス面では、当社はトラブル時に翌日までに駆け付ける「ワンデーサービス」を行っています。翌日までの対応率は90%を維持し、業界の中でも対応が早いと好評です。
ただし、製品の性能向上により故障率は30年前の約20分の1まで低減しました。主な要因はエンジン系の不具合減少で、発売当初は自動車用エンジンを転用していたため耐久性に課題がありましたが、部品や冷却水等の改良で現在の水準に至っています。
GHP発売当初は都度の修理・点検依頼が主流でしたが、現在は定期点検と修理込みの保守契約が標準的になっています。
定期交換部品の交換サイクル長期化により、点検インターバルが1年・2千時間から5年・1万時間に長くなり、保守費用も低減されました。

GHP市場は節目、当面は更新需要をカギに

市場動向でいうと、東日本大震災後の2011年以降と、2019年に学校向けの需要が高まったことで出荷台数は伸びましたが、その後はコロナ禍の反動減や、カーボンニュートラルの流れを受けて下り坂となっているように感じています。一方で、これまでに何十万台というGHPが市場に出荷されているので、機器の更新需要は根強くあります。EHPとの比較優位性が常に問われますが、電力デマンドのカットがGHPの重要な役割であり、その点に大きな変化はありません。

ガス事業者の皆様には、GHPを導入いただいたお客様との関係を大切にしながら、ぜひ機器の更新需要を確実に取り込んでいただきたいと思います。
そして、私たちメーカーとしても、カーボンニュートラルの潮流に適合した新商材の開発に取り組んでいます。空調は室内環境を維持するうえで不可欠のアイテムであり、その重要性は今後も変わりません。ガス業界の皆様と協力しながら将来を見据えた提案をさせていただきたいと考えています。

株式会社アイシン
https://www.aisin.com/jp/
https://www.aisin.com/jp/product/energy/ghp/

Part.3――省エネ、BCP、ZEBで次世代のGHP戦略を

ダイキン工業株式会社 東京支社空調営業本部 営業開発部 課長 林康弘さん
ダイキン工業株式会社 東京支社空調営業本部 営業開発部 今井尚さん

年間エネルギーコスト45%低減を実現

当社は2006年にGHP市場に参入しました。当初は標準シリーズと発電機を搭載したハイパワーシリーズを展開。その後、お客様のニーズや社会課題に応える形で、製品ラインナップを着実に拡充してきました。環境性能や設置性の向上はもちろん、昨今は災害対策としての電源自立型など、多彩なバリエーションを取り揃えています。

エネルギー効率の大幅な向上は、GHP技術進化の中でも特に重要な成果です。月々のランニングコストに直結する課題なのでお客様の関心も高く、当社としても大命題として最優先で取り組んできました。実際に、2006年モデルと比較すると、年間エネルギーコストは30~45%低減。また、外寸・質量の低減により設置性も大きく向上しました。

GHPとEHP、ベストミックスの提案が可能

GHPやEHP、換気機器、家庭用エアコンなど、総合空調メーカーならではの幅広い製品ラインナップを持つことは、当社の強み。お客様のニーズに合わせて、GHPとEHPを柔軟に組み合わせたベストミックス提案が可能です。例えば、GHPを採用している物件であっても長時間運転が必要な部分にはEHPを、全面的にEHPを導入している物件でも電力ピークカット対策としてGHPを部分的に導入するなど、個別の製品提案にとどまらない建物全体の空調システムを見据えたソリューションを実現します。

また、製品と連動した集中管理システム「インテリジェントタッチマネージャー(ITM)」やクラウド型の遠隔監視サービス「DK-CONNECT」など、利便性と省エネを両立するソフト面のサポートも充実させています。全国59拠点のサービスネットワークと、24時間365日受付のコンタクトセンターによる手厚いサポートも、お客様から高い評価をいただいています。空調トラブルは、飲食店やホテルの営業の損失につながり、病院では人命に関わる危機になりかねません。「24時間365日いつでも、困ったときに確実につながるから、ダイキンを選んだ」というお声も多いです。

「ガスでZEB」を発信し今後の商機に!

東日本大震災以降は業界全体でガス空調需要が高まったこともあり、一定の出荷台数で推移しましたが、足元ではカーボンニュートラルを背景に低調気味と言えるでしょう。
脱却するためにはまず、GHPの更新需要を確実に取り組んでいくこと。同時に、私たちメーカーが実施する勉強会などで、GHPの性能向上にともない現在は故障率が非常に低くなっていることをしっかりと発信していく必要があると思っています。

参考:一般社団法人日本ガス協会「ガスZEBポータル」

そして、カーボンニュートラルの潮流の中で、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化を目指す動きが活発化していることにも目を向けていただきたいです。ZEBというと電気で検討されるケースの方が多いですが、実際にはGHPを採用したZEB案件も増えています。ガス空調の省エネ・環境性能の高さは依然として健在ですから、ガス事業者様とも協調しながら、「ガスでZEB」をしっかりPRしながら推進していくことも重要でしょう。

ダイキン工業株式会社
https://www.daikin.co.jp/
https://www.ac.daikin.co.jp/ghp