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東日本大震災から11年、エネルギー改革は果たされたか?

今回は、東日本大震災から約2年後、2013年・新年号の『NET WORK』に掲載した、国際大学 学長の橘川武郎先生(当時・一橋大学大学院 商学研究科教授)と伊藤忠エネクス 中川昭生ホームライフ事業本部長(当時)による新春スペシャル対談にフォーカス。橘川武郎先生に取材し、熱く語り合われた当時の“エネルギー改革”について、現在どうなっているかを検証するとともに、改めて、LPガス業界の現状と未来について話を聞きました。

▼2013年掲載の記事はこちら▼

――2013年の年初、「脱・原発依存という方向性はほぼ固まったといえます」と明言されていました

まさにそうなったと思います。2018年に発表された第五次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーを主力電源とし、原子力を副次電源とする方針が示されました。2030年までに原子力発電の電源構成比率を20〜22%に抑えることに加えて、再生可能エネルギーの拡大についても言及していて、2030年までに電源構成比率を22〜24%にすることを目標に掲げました。やはり、東日本大震災以前は原子力が電源構成の中心でしたから、震災後、最も大きく変化したのは、原子力の位置づけでしょう。

国内電源構成比の推移と予測

出典:資源エネルギー庁資料
「エネルギー政策の現状について(令和2年9月)」

――東日本大震災以前からエネルギートレンドの変化は避けられない状況であった、という話題もありました。当時のエネルギートレンドというと?

石油燃料の国内需要は21世紀に入ってから減少が続き、現在も同様です。LPガスは増加までは至らなかったものの、他燃料より減少幅は小さいです。
興味深いのは、経済産業省が発表した2023年のLPガス需要量が1230万tですが、一方、グリーンLPガス推進官民検討会が発表した2035年予測は1250万tと、2023年よりも多いという予測です。ただし、2050年には800万tまで減少すると予測されていますから、今後10~15年は需要が大きく減らないとみられます

2024~2028年度石油製品需要見通し(液化石油ガス全体)

出典:経済産業省 石油製品需要想定検討会
「2024~2028年度石油製品需要見通し(令和6年4月26日)」

その理由は、二酸化炭素排出量削減への取組みとして、化石燃料の中で石油や石炭からガスへの燃料転換が進むためです。都市ガスへの燃転でも、増熱用でLPガス需要は増えることになります。つまり、石油需要は減少傾向にありますが、LPガス需要はそれほど減少していないというのが現状だといえます

――都市ガスエリアでのLPガス併用を提言されていましたが、実際に進んでいるのでしょうか?

残念ながら、実現されていないと思います。都市ガスエリアでも、質量販売を伸ばしている事業者さんはいるんですけどね。
最大の問題は、質量販売の保安責務、いわゆる「30分ルール」でしょう。世界では当たり前の質量販売が、メーター販売が基本の日本では例外的で、この状況が変わらないことがLPガス需要の伸びを止めていると思います。

たとえば、都市ガスエリアの住宅で6棟あったらその内1棟はLPガスを使用するなど、都市ガスエリアであっても、LPガスを使い慣れているということは災害対策として重要です。災害時のエネルギー源の多様化につながりますから、時間はかかるでしょうが、こうしたことが進むと良いですね。

――震災時、LPガス車が果たした役割が大きかったことに触れ、LPガスハイブリッド車という選択肢もあるのでは? と話していましたが…

トヨタのジャパンタクシーの増加で、その兆しは見えてきましたが、LPガスハイブリッド車(LPガス×電気)はまだ世界的にも例がないですね。ただ、政府は2035年までに新車販売される乗用車を100%電動車にすることを目標としています。

2023年の燃料別新車販売台数(普通乗用車)の割合

出典:東京電力エナジーパートナーサイト「EV-DAYS」

一般的にはEV(電気自動車)を思い浮かべがちですが、実はプラグインハイブリッド車とハイブリッド車も電動車に含まれているんです。ハイブリッド車は電気でも動くので電動車の範疇に入り、つまり、2050年になってもハイブリッド車が存在し続けるということが見えてきました。LPガスを燃料とするハイブリッド車という選択肢も、まだ可能性として残されていると考えられます。ただ、昨今のLPガススタンドの減少は悩ましい問題ですね。

――業界の今後として、2030年の電力依存度におけるコージェネレーションを2010年の5倍の15%に、という話もされていましたが現状はいかがでしょうか?

産業用のメガソーラーが中心ですが、太陽光はFITで相当広がったと思います。面積あたりの太陽光導入量は、G7では日本がトップですから。反面、残念ながら、太陽熱の利用は進んでいません。そのこともあって、15%コジェネというのはまだまだですが…。

平地面積あたりの太陽光設備容量(2021年)

出典:資源エネルギー庁資料
「2030年に向けたエネルギー政策の在り方(令和3年4月13日)」

エネファームは、水素社会になって水素自体が供給されるようになれば、普及が進むでしょう。今の仕組みでは、ガスを供給して水素を作っているからコストがかかり、導入も進みません。これが、外から水素を供給できるようになれば、あのシステムが生きてくる可能性は十分あると思います。ただ、2040年代以降になると思いますけどね

――国内のLPガス需要開拓の余地はまだあると話されていましたが、現在も同様の考えですか?

灯油などの他の燃料に比べれば、家庭用の需要は今のところそれほど減っていません。都市ガスエリア、オール電化住宅や産業用での燃料転換が進めば、LPガスの需要は増えます

総人口の推移予測(2020年~2050年)

出典:総務省統計局「世界の統計2024」

世界に目を向ければ、これから一番需要が伸びるのは恐らくLPガスです。インドやインドネシア、フィリピンをはじめとするアジアの新興国では、飛躍的な人口増加に合わせてLPガスの需要が急速に拡大しています。電力価格に上限を設定している新興国(フィリピンを除く)では、政府も電力会社の経営を支える補助金の負担を減らしたいという現実的な事情もあって、LPガスシフトを後押ししています。国内もですが、アジアを中心とした海外需要を取り込むことが、日本のLPガス業界の活路になるでしょう

――大ファンである阪神タイガースについての提言「選手よりも監督の補強を」「落合博満氏を監督に」という提言もされていましたが…

「落合監督」が実現すれば良かった、と今でも思ってはいるんですが、難しそうですね。前から、「1985年の日本一の後、生きている間にもう一度日本一を見たい」と言い続けてきたんですが、昨年叶ってしまったので、私もとうとう…⁉ という感じになってしまって、ちょっとヤバイなと思っています(笑)。

橘川 武郎

国際大学学長
日本経営史・エネルギー産業論学者

1951年、和歌山県生まれ。東京大学、一橋大学名誉教授を務める他、国内外の大学で研究員や客員教授を務める。経済産業省・資源エネルギー庁関係の審議会の委員等を歴任し、エネルギー産業の動向に詳しい。
また、著書もあるほどのプロ野球ファン・虎党としても知られる。