誠の相場観

2022年3月14日

誠の相場観vol.10

第10回 変わる秩序。脱ロシアによる急騰長期化予測。脱炭素影響と新地政学リスク

  3月11日。G7首脳声明が発出。以下中略(仮訳原文)

「我々は共同で、ロシアの主要な銀行を世界の金融システムから孤立させ、ロシア中央銀行の外貨準備を利用する能力を弱め、ロシアを我々の先端技術から切り離す広範囲な輸出禁止及び管理を行い、この戦争の立案者であるロシアのウラジーミル・プーチン大統領とその側近及びベラルーシのルカシェンコ政権を制裁対象にした。」

 「発表した計画に加えて、我々は秩序立った形で、世界が持続可能な代替供給を確保するための時間を提供することを確保しつつ、ロシアのエネルギーへの依存を削減するため更なる取組を進めていく。」

「我々は、ロシア市場からの秩序立った撤退を追求する我々の企業と共にある。我々は我々の経済及び国際金融システムからロシアを更に孤立させることを引き続き決意している。従って、我々は各国の法的権限及び手続と整合的な形で、現在我々がとっている対応の文脈において可及的速やかに更なる措置をとることにコミットする」

  英シェルはロシア事業完全撤退。

サハリン2を含むロシア関連の資源開発・調達中止。

具体的な動きを目にすることが増えた。

これまでの原油動向を辿ると、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始により原油価格は100㌦到達後、すぐに侵攻前水準の90~95㌦レンジに反落。

事前に相場に織り込まれていた事でこの点は想定通り。

そして恐れていた急騰シナリオが現実化し、その後国際社会が具体的な経済制裁へ踏み切り始めた。

世界的な供給網よりロシアを排除することは、世界第3位の産油国であるロシア産エネルギーの供給混乱に対して市場は強く警戒し、100㌦を一気に突破し、一時130㌦強まで急騰とシェール革命後の最高値を更新。

  現在の脱ロシアと制裁からの供給不安をベースに100㌦をボトムに、130㌦を上値として日々ジェットコースター並みの乱高下継続の強弱材料が交錯。

一時20㌦幅/日の値動き。

短期的な対応策としてのOPEC増産やIEA備蓄放出。

米国内増産や米国によるロシア産原油禁輸。

イラン・ベネズエラ制裁緩和に向けた協議進展など。

  中長期的な対応策では、ロシアからの供給依存度低下、エネルギー安保やクリーンエネルギー急速シフト化など。

先日のEU首脳会議では天然ガスや石油のロシア依存を脱却する時期として「2027年」という具体的な目標を掲げた。

従い残り5年でエネルギー国際需給も大きな変貌を遂げよう。

  ただ世界第3位のロシア産エネルギー供給を排除することは決して容易ではない。

OPECバルキンド事務局長は

「ロシアの日量700万バレルの供給を代替する能力を世界は持たない。需給タイト化で需要崩壊に向かう事を懸念。OPEC加盟国と非加盟国の結束が必要。投資を見送り続けるような余裕はない」

と、現在の化石燃料への新規投資の足枷となっている脱炭素化潮流に苦言を呈す。

  またロシアのノワク副首相は欧米がロシア産原油の輸入を禁止すれば、原油価格は300 ㌦を超える水準に上昇するとの見方を示し、同時にロシアからドイツにLNG供給するパイプラインも閉鎖されると警告している。

  また新たな地政学リスクとして、この間イラン核合意修復に向け最終段階に入っていた米国とイランの協議は一転、ロシアによる土壇場の要求により、崩壊の危機に直面している。

ロシアのラブロフ外相はロシアとイランとの貿易や経済、投資や軍事技術の協力などは対ロ制裁で妨げられないことを保証する様、米国に要求。

これに対し米政府はすぐさま拒絶。

ただ交渉が決裂すればイランにとって核武装は目と鼻の先。

中東での新たな戦争勃発リスクの懸念浮上。

またここのところ続くイランが支援するイエメン武装組織フーシ派によるサウジ・UAEへの攻撃・交戦の拡大が危惧される。

10日にはサウジの製油所がまたドローン攻撃を受けている。

  この様に世界のエネルギーを取り巻く環境・需給は構造的な転換へ動き始めた。

単にロシアによるウクライナ撤退では、もはや片付けられるものでなく、またロシア側につく中国の動向、今回を機に米国との距離を再査定する中東諸国、またそれを起因する新たな地政学リスクの誕生等々。

これだけ不透明な状況下、国際社会がどのように最適解を見出していくのかは容易ではないこと、またこれまで揺るぎのない潮流であった脱炭素化への動きは、ロシア産エネルギーの供給不安がある中ではブレーキが掛かり易く、「脱ロシア×脱炭素=不透明な原油高の長期深刻化」という計算式の時代に突入したと言えよう。